人事・採用部門での経験を持ち、これまで数多くの退職手続きや労務トラブル、組織の裏側に携わってきた筆者が、退職金と辞め方の関係について「採用・人事の視点」から解説します。
「会社の雰囲気がどうしても合わず、今すぐにでも辞めたい。しかし、数ヶ月後に支給される予定の退職金を放棄してでも今すぐ辞めるべきか、それとも我慢して受け取ってから辞めるべきか……」
退職のタイミングと退職金の受給をめぐり、夜も眠れなくなるほど悩むビジネスパーソンは少なくありません。特に40代に差し掛かると、これまでの勤続年数がそれなりに積み重なっているため、退職金の金額も無視できない額になっているケースがほとんどです。「せっかく何年も働いてきたのだから、退職金を一円でも多く受け取って辞めたい」という本音がある一方で、「心身の限界を超えているため、お金よりも一刻も早くこの環境から抜け出したい」という切実な思いの間で心が揺れ動きます。
人事役員として数多くの退職や引き継ぎ、時にはトラブルに発展したケースを間近で見てきた中で痛感するのは、「退職金は単なるボーナスではなく、これまでの労働に対する企業からの給付の一つであり、次の生活を支える重要な資金にもなる」という事実です。
結論から言えば、心身の状態に問題がなく、退職金の受給条件を満たすまでの期間が短いのであれば、受給条件を確認したうえで退職時期を調整することは、経済面では合理的な選択肢です。一方で、心身への負担が大きい場合や、退職後の生活・転職に支障が出る場合は、退職金だけを理由に無理して在籍し続ける必要はありません。しかし、会社の就業規則の規定や自身のメンタルコンディション、次の転職先が決まっているかどうかによっては、あえて退職金を一部放棄してでも即座に環境を変えるべき場面も存在します。
この記事では、退職金を「貰って辞める」か「すぐ辞める」かで迷った際に、どのような基準で判断すべきかを人事の裏側も交えて徹底的に解説します。
退職金を「貰って辞める」か「すぐ辞める」かで悩む本当の理由
退職金の受給を巡る葛藤の本質は、単なる「お金の損得勘定」だけではありません。そこには、会社に対する不信感や、これまでの労力が正当に報われていないという悔しさ、そして自分の人生をこれ以上会社に縛られたくないという焦りが複雑に絡み合っています。
- 「会社への我慢」と「金銭報酬」のトレードオフ
「これだけ理不尽な扱いや過酷な労働に耐えてきたのだから、退職金という見返りを受け取らないと割に合わない」という心理が働きます。一方で、「これ以上この会社にいると精神的に壊れてしまう」という防衛本能がぶつかり合います。 - 「今すぐ辞めたい」という衝動と「数ヶ月の壁」
例えば、あと3ヶ月耐えればボーナスと退職金の査定期間が満了するケースなどでは、「たった3ヶ月」と感じるか「地獄のような3ヶ月」と感じるかで判断が大きく分かれます。
私が採用面接や相談を受ける中では、退職金を諦めてでも辞めたいと考える人の中に、心身への負担が大きくなっている人や、会社のコンプライアンスに対して強い不信感を抱いている人もいました。しかし、感情的になって勢いで辞めてしまうと、後から「もう少し冷静に準備しておけばよかった」と後悔するリスクもあります。
人事役員が明かす「退職金規程」に隠された知られざる落とし穴
退職金をあてにして残る決断をする前に、必ず確認しておかなければならないのが、会社の「退職金規程」の細則です。多くの従業員は「会社を辞めれば一律でこれだけの金額がもらえる」と思い込んでいますが、実際には企業の内部規定によって様々な条件が設定されています。
自己都合退職と会社都合退職における支給条件の違い
退職金の支給額や計算方法は会社の退職金規程によって異なります。自己都合退職と会社都合退職で支給率や算出方法を分けている企業もあるため、退職前に自社の規程を確認しておくことが重要です。
懲戒解雇や「退職金不支給規定」に関するルール
会社によっては、懲戒解雇や重大な規律違反などを理由として、退職金の全部または一部を減額・不支給とする規定を設ける場合があります。実際にどのような扱いになるかは、会社の退職金規程や就業規則を確認する必要があります。会社によっては、退職をめぐって懲戒処分などを主張するケースもあるため、辞める意思を伝えるタイミングやそれまでの社内での立ち回りは慎重に行う必要があります。
勤続年数の「端数処理」とボーナス査定の連動
退職金の計算において、勤続年数の「端数(例:3年と11ヶ月など)」を切り捨てて計算する規定になっている場合があります。あと1ヶ月在籍していれば上の年数ランクに移行し、退職金が跳ね上がったはずなのに、それを知らずに数日前に辞めてしまうことで数万〜数十万円を逃してしまうケースも見てきました。
即日退職・退職代行という選択肢と退職金の関係
近年、心身の限界を迎えたビジネスパーソンや、会社側との直接のやり取りが困難な環境において、退職代行サービスを利用して退職手続きを進めるケースもあります。しかし、ここで大きな懸念となるのが「退職代行を使って辞めた場合、退職金はどうなるのか」という問題です。
退職代行サービスを利用したことだけを理由として、退職金が当然に不支給になるわけではありません。ただし、退職金の支給条件や減額・不支給の条件は会社の退職金規程などによって異なります。退職代行を利用する場合でも、自分が退職金の支給対象となっているか、規程上どのような条件があるかを事前に確認しておくことが重要です。
実務上のリスクとして以下のようなトラブルが起こり得ます。
- 会社との感情的な対立によるやり取りの難航:会社側が感情的になり、退職金の支払いに必要な書類のやり取りをスムーズに行わなかったり、連絡が取りづらくなったりするケースがあります。
- 業務への影響をめぐる主張:退職までの期間が短く、引き継ぎなどが十分にできないことで業務に影響が出たとして、会社から損害賠償を請求すると主張される場合があります。ただし、実際に損害賠償が認められるかどうかは、退職の経緯や会社に生じた損害など、具体的な事情によって判断されます。
このような複雑な労務トラブルを避け、円満かつ確実に退職金を受け取りながら次のステップへ進むためには、状況に応じた専門的なサポートを検討するのも一つの方法です。
たとえば、会社との間に立って退職手続きや退職条件の調整をサポートしてくれるサービスとして「円満退職ユニオン」や「ネルサポ」などの退職代行・サポート組織があります。特に労働組合が運営する退職代行であれば、退職日や有給休暇、最終賃金などについて会社と協議できる場合があります。会社との直接のやり取りに精神的な負担を感じる人にとっては、こうしたサービスも選択肢の一つです。
- 円満退職ユニオン
- 特徴とメリット: 労働組合が運営しているため、単なる連絡の伝達だけでなく、有給消化や退職日の調整など会社側との具体的な交渉が法的に認められています。会社との間で条件面などの調整が必要なケースに強みを発揮します。
👉円満退職ユニオン公式サイトへ無料相談する
- 特徴とメリット: 労働組合が運営しているため、単なる連絡の伝達だけでなく、有給消化や退職日の調整など会社側との具体的な交渉が法的に認められています。会社との間で条件面などの調整が必要なケースに強みを発揮します。
- ネルサポ
- 特徴とメリット: 相談から退職完了まで追加料金なしの明朗会計でありながら、スピーディーな対応が可能です。弁護士監修のサポート体制が整っており、一刻も早く心理的負担から解放されたい人に適しています。
👉️ ネルサポの公式サイトで相談してみる
- 特徴とメリット: 相談から退職完了まで追加料金なしの明朗会計でありながら、スピーディーな対応が可能です。弁護士監修のサポート体制が整っており、一刻も早く心理的負担から解放されたい人に適しています。
【状況別】「貰って辞める」を選ぶべきケースと「すぐ辞める」を選ぶべきケース
退職金をめぐる決断を下す際、自身の置かれている状況を客観的に分類することが重要です。
「貰って辞める」を選ぶべきケース
- 心身の健康は保たれており、あと数ヶ月(1〜3ヶ月程度)の勤務に耐えられる場合:経済的な余裕は何よりも次の転職活動や生活の安心につながります。支給日まで計画的に在籍し、淡々と引き継ぎを進めて受け取るのが最も合理的です。
- 退職金の金額が生活の基盤として非常に大きい場合(勤続年数が長く、まとまった額になる場合):数ヶ月の我慢でまとまった金額の差が出るのであれば、キャリアの通過点として割り切って在籍を続ける価値があります。
「すぐ辞める」を選ぶべきケース
- うつ病の初期症状が出ている、または出社しようとすると激しい動悸や嘔吐感がある場合:これ以上その環境にとどまると、健康そのものを失い、結果的に働くこと自体が不可能になります。「命や健康を金で買う」つもりで、即座に離脱することが最優先です。
- 会社の経営状態が極めて悪く、そもそも退職金が支払われる保証がない場合:「数ヶ月後に支給する」と言いながら、実際には会社の資金繰りがショートして踏み倒されるケースや、倒産寸前の企業も存在します。ない袖は振れないため、ズルズルとしがみつくよりも、早めに見切りをつけて次の安定した環境へ移るほうが安全です。
損をしないために退職前に必ず確認すべき3つのポイント
感情に流されて後から後悔しないために、退職の意思を会社に伝える前に以下の3点をご自身で必ず確認してください。
- 就業規則の「退職金規程」を実物(またはコピー)で確認する:自己都合退職の場合の算出方法、支給時期、最低勤続年数の条件を自分の目で確認しましょう。
- 次の転職先や生活費のランニングコストを計算する:退職金を放棄してでも今すぐ辞める場合、貯金で何ヶ月生活できるか、失業給付の受給開始時期を把握しておくことが不可欠です。失業給付(雇用保険の基本手当)の受給開始時期についても確認しておきましょう。自己都合退職の場合、2025年4月以降は原則として7日間の待期期間後に1か月の給付制限があります。ただし、過去5年間に一定回数以上の自己都合退職がある場合などは、給付制限が3か月となるケースがあります。
- 客観的な市場価値や選択肢を把握しておく:「この会社を辞めたらもう終わりだ」という恐怖心が、理不尽な環境にしがみつかせる最大の原因になります。外部の転職サービスやミイダスの市場価値診断などを活用し、「自分には他にも選択肢がある」という客観的な事実を知っておくだけで、精神的な余裕が大きく変わります。
まとめ:退職金は大切だが、最大の資産はあなた自身の心身の健康である
退職金は、これまでの勤務に対して会社の規程に基づいて支給される重要な給付であり、決して軽視できるものではありません。可能な限り、規程の条件をクリアし、受け取ってから円満に退職するのが理想的なシナリオです。
しかし、お金は何とかなっても、一度失った心身の健康や失われた時間は二度と取り戻せません。会社の不誠実な対応や劣悪な環境に耐え続け、ご自身が壊れてしまうくらいなら、時には「退職金をあきらめてでも、自分の人生を取り戻す」という決断こそが、最大の防衛策になることもあります。
ご自身の現在の心身の状態、退職金の金額、そしてこれからのキャリアのバランスを冷静に見極め、後悔のない選択をしてください。自身の現在地や市場での評価を客観的に知ることから始めたい場合は、ミイダスの市場価値診断などを活用して、いつでも別の道へ進める準備をしておくことをお勧めします。


コメント